目が見えない、見えづらい人は音訳図書・拡大図書などで本を読む。近年ではデジタルを活用した「アクセシブルな電子書籍」の普及が主流となっているが、点字図書も重要なツールの一つだ。精読には点字による読書の方が向いている。数字を正確に読み取ったり、初めて聞くカタカナの固有名詞などを理解するには、点字が欠かせない。また、自分のペースで飛ばしたり読み直したりすることも能動的に行える。視覚障害のある保護者も、点字付き絵本があれば、子どもに読み聞かせて一緒に楽しむことができる。
今回は、そんな点字図書・点字資料の製作を行っている桜雲会の作業場を訪れ、「ABSC設立に向けて」挨拶原稿の点字資料ができるまでの様子を見学させてもらった。高田馬場にある作業場に入ると、7,8人のスタッフが、それぞれPCや専用の点字ディスプレイを前に黙々と作業をしていた。
当日の点字製作の工程
これらの一つ一つの作業を目の当たりにしてわかったのは、「点訳作業は、想像していたよりもはるかに手間と時間を要する!」ということだ。
とくに、読み合わせの作業では「小野寺さんのお名前の読みは(まさる)さんでいいか?」、「Booksは先頭のBだけが大文字」など、一つひとつを確認し、細かく調整していく。「日本」という漢字をニホンと読むか、ニッポンと読むか。「等」という漢字をナドと読むか、トウと読むか。点字では漢字を用いず、ひらがなとカタカナの区別も行わないので、文脈に適した読みとなるよう判断していく必要がある。
専門用語の読みの確認も一筋縄ではいかない。
「ここの『判型』という語は、ハンガタと読むか、ハンケイと読むか、どちらでしょう?」
どちらの読み方も正しいが、点訳においては、どちらでもいい、とはいかない。「ハンケイだと、円の直径・半径の方を想起してしまう読み手もいるかもしれない」とのアドバイスで、ここではよりニュアンスが伝わるであろう「ハンガタ」で点訳していただくことになった。さらに、元の墨字原稿に誤植があることも判明した。
「今はこの場にいらっしゃるから直接聞けますが(笑)」
確認箇所があればあるほど、相当な時間を要する作業である。
こうした作業の先に、点字図書の完成を待っている読者がいると思うと、各工程で少しでも効率的に作業が進められる手立てが望ましい。
「①入力」は、前述の自動点訳ソフトでの変換のほか、すべて手入力による作業もある。元の墨字原稿を見ながら、キーボードで一字一字打ち込んで点字データにしていく方法だ。テキストデータの提供有無で、作業負担が大きく異なる。
「例えば点字10ページをすべて手入力で点訳すると、それだけで1時間程度はかかってしまう。でもテキストデータがあれば、ソフトで点字データに自動変換することができ、まちがっているところやレイアウトを中心に直していくだけでいいので、手入力の何分の一かの作業時間ですむ。やっぱりテキストデータを提供していただけるというのは、ありがたいことですね」
桜雲会での点訳・校正作業の動画はこちらから!
訪問先:社会福祉法人桜雲会点字出版部
一般書・医学書・教科書・副教材などの点字出版、自治体広報誌の点訳・音訳、各種セミナーの開催など、視覚障害者等への支援事業を幅広く展開。障害当事者のスタッフが業務に就いている。
(「ABSC準備会レポート 2022年7月号(創刊号)」収録)